今回のフォーラムでは会場に150名、ZOOMで400名を超える皆さんが視聴するなかプログラムが進んでいきました。
最初に登壇したのは、ほこみち広報アドバイザーの山名清隆さん。開会のあいさつを終えると、カメラとともに会場をまわって現場の雰囲気を伝えてくれました。
「『ほこみち』によって、実際にどこかの街角の道路で見られるかもしれない風景をホールの中で再現してみました」と山名さんがいうように、会場内には、株式会社Mellowのご協力のもと、実際にコーヒーやホットドッグが食べられるキッチンカーを設置。ほかにも株式会社タカショーよりご提供いただいたエクステリアを使ってつくられたリラックススペースには、都市戦略家でソトノバ共同代表の泉山塁威さんが厳選した「ほこみち」を理解するために役立つ本なども置かれ、道路空間の新しい未来を想像させてくれました。
続いて、フォーラムの進行役である国土交通省 道路局 環境安全・防災課の山本浩之さんと坂ノ上有紀さんが登壇。現在、国と14の自治体が管理する45の道路で展開している「ほこみち」の現状と、その可能性について解説してくれました。
ここでは、「ほこみち」のオフィシャルマークも発表。その名も「ほこみちくん」。デザインのベースとなったのは音符で、道を歩くと音楽が聞こえてくるようなイメージが具現化されています。坂ノ上さんによると「『ほこみち』は人が生き生きしている、人が元気にしているイメージがあるので、そのイメージにぴったり当てはまっているマーク」とのことで、今後、「ほこみち」をPRするさまざまなシチュエーションで使用されていく予定となっています。
フォーラムはここからいよいよ本題に。まずは『キーノートはニューヨークから~重松健が見たニューヨークオープンストリート革命~』というタイトルで、ニューヨーク在住の都市建築家、重松健さんと回線を結び、海外の道路活用の状況や、コロナ禍を受けて飛躍的に進化した公共空間の使い方などについてお話をうかがいました。
はじめに重松さんが語ってくれたのは、「パンデミックは街に何をもたらしたのか」。この点で、ニューヨークに住んでいていちばんに感じたのは、「メインストリートの解放」だったといいます。
「本来、人間の活動は屋外で起きていて、そのにぎわいは常に屋外にありましたが、都市が大きくなるにつれ、人間は屋内に閉じ込められ、屋外は車に占領されていた」と、重松さん。それがコロナ禍をきっかけに本来の状態へと戻っていき、ニューヨークはより魅力的な街に進化したと語ります。
以前よりニューヨークでは、「ニューヨークを世界一健康な都市にする」という宣言のもと、第108代市長のマイケル・ブルームバーグと元市交通局長・ジャネット・サディク=カーンにより、だれもが歩きたくなるまちづくりが進められていました。しかし、当時からこのストリート革命を実施するにあたっては、すべてを正攻法でやっていては法律などのしがらみによって、何も進められないことがわかっていたそうです。そこで彼らが選択したのは、まず実験してみること。道路という空間がもつ可能性を自由に試して、そのうえで不必要なものは削り、必要なものだけ残していくという試行錯誤が行われました。
そうした考え方が基本にあったため、パンデミックによって街から人影が消えたニューヨークでは、メインストリートを人々に解放する社会実験もすぐにスタート。道路空間にテーブルを置いたり、建物を建てたりと、それがたとえ法律に違反していたとしても、そこを訪れる人たちやそこで暮らす人たちにとって結果がハッピーであれば、法律の方を変えていこう。そうした行政側の柔軟な姿勢があったからこそ、スピード感のあるオープンストリート革命は進んでいったそうです。
最後に重松さんは、サントリー(現・サントリーホールディングス株式会社)の創業者である鳥井信治郞氏、パナソニックの創業者である松下幸之助氏の「やってみなはれ」という名言を挙げながら、「これだけ変化が速く先の見えない時代においては、完璧を求めてやるのではなく、スピード感をもってどんどん試していく実験思考が必要ではないでしょうか」と語ってくれました。
続いてはインスパイアレポート『ほこみち先進プレゼンテーション ~道路空間活用に立ち向かう挑戦者たちの奮闘~』と題して、日本全国で道路空間活用を実践している方々が、その取り組みについて紹介していきました。今回、登壇してくださったのは大阪(なんば・御堂筋)、神戸、姫路、福井、新潟、東京(丸の内)、さらに建設コンサルタンツ協会の皆さんで、以下のように、その知られざる挑戦についてお話をうかがうことができました。
以下、内容を抜粋してご紹介します。
地元のなんさん通り商店街が「これからは車社会から人中心の社会だ」という発想のもと、すべてが民間発意のもと始動した「なんば広場改造計画」に起源をもつプロジェクト。なんば駅前を大阪のおもてなし玄関口にふさわしい場所にすることを目標に、これまで数回の社会実験を行いました。広場自体の改造ではなく、ここを起点にエリア全体に回遊性を創出することを目指し、大企業と地元商店街が連動したことにより、きめ細やかな合意を形成することに成功しています。
「世界最新モデルとなる人中心のストリートへ」をコンセプトに側道歩行者空間化の社会実験をスタート。当初、パリのシャンゼリゼ通りをイメージしたが、この実験をきっかけにより大阪に合ったカタチを模索していきました。特にゴミと放置自転車の問題が重要であると考え、道路清掃・放置自転車の啓発活動を官民連携で定期的に実施。現在までオープンカフェによる回遊創出、地下鉄出入口のリニューアルなど社会実験が行われています。
海と山に囲まれ、駅とまちが近いという立地条件を活かした新たなまちづくりがコンセプト。駅を出た瞬間に、訪れた人たちの足が自然とまちへと向かっていくよう、広く豊かな屋外空間を沿道建築物と一体となって整備しています。密を避けながら安心して駅から周辺エリアへ回遊していくことができる「人が主役の居心地のよいまち」を創出することを目指し、中心部の10車線ある交差点をJRの再開発と合わせて、段階的に6車線、3車線と車から人の空間へ転換していく「三宮クロススクエア」と呼ばれる計画を核に、駅周辺の再整備が進んでいます。また、三宮中道通りにも「ほこみち」制度を活用し、地元組織と連携しながら道路形態に応じた歩行者中心の道路を目指しています。
姫路城へと続く大手前通りを「ほこみち」に指定し、歩道拡幅などの再整備が完了しましたが、沿道の1階には商業施設が乏しく、ファサードが閉じてしまっているなど、道と建物の連携が少なく、歩いていて楽しい場所になっていないという問題点が発生していました。そこで現在、エリアの個性がより発揮された、日常的ににぎわう憩いの空間となるストリートを目標に、まずは官民が理想とする道路のビジョンを共有。日常的な滞留空間をつくって運用する社会実験「ミチミチ」を実施してその効果を検証するほかにも、制度を使いこなすシーンをつくることでより多くの人が一緒になって場所を育てていくことを目指しています。
「ふくみち」とは、福井駅周辺における歩行者利便増進事業のことです。この社会実験を行ったのは、現在、市街地再開発事業が進むJR福井駅周辺にのびる中央大通りで、そのニューアルにあわせて回遊性に富んだにぎわいのあるまちづくりが進められています。朝昼夜の時間帯ごとにキッチンカーの出展やアクティビティを設置し、その効果を検証。社会実験中には、みちに音楽があふれ、今まで通過していた道路に人の停滞する空間が生まれるなどの効果を実証しました。今後の展開としては、協力企業と新たなみちづかいを検討しながら、これを道路設計に反映させるとともに、新たな担い手を育成する組織づくりが図られていく予定です。
新潟駅から万代、古町地区を結ぶ約2kmを「にいがた2km」と命名し、このエリアの価値を高めていくプロジェクトを紹介してくれました。始動にあたっては、自分たちがどんな理想の生活ができればいいかを考えながら、「にいがた2km STREET VISIO~あなたと未来を語りたい~」というビジョンにまとめ新潟市長に提言。現在はまずビジョンを広く知ってもらう時期として、コロナ特例を利用し、道路空間を使ったさまざまな社会実験を実施中です。特に旧新潟駅前通りで実施された「流作場Street Park」では、おとな場・こども場という2種類のエリアをつくり、人流の変化を見ることで、道路空間の可能性が検証されました。
現在も、道路上に仮設建築物を設置し憩いの空間を演出するなど、先進的なイベントを定期的に開催することで、道路空間を多様な活動の舞台とする取り組みを実施している丸の内仲通り。2015年にモデル事業として始動した当初は、本当に何もない「0」の状態でしたが、だからこそ無限の可能性があったとのこと。さらに、プロジェクトを進めるにあたっては、あきらめず、大胆に。そして、みんながこの場所を好きになるためにはどうすればいいのかを考えながら、妄想を止めなかったことが成功につながった。現在もさまざまな実験を行い、安全性の検証などもくり返しながら、日常を積み重ねていくことでより良い将来のあり方が模索しています。
これまで建設コンサルタントは、社会資本整備の中での事業者のパートナーを務めることが主な役割でした。しかし、今後は多くの人に愛される魅力的なまちづくりを目指して、にぎわいを支えるモビリティ・荷捌きのあり方、にぎわい創出のアイデアなど、これからの道路空間の活用を提案していきます。特に、市民や民間事業者のパートナーとして、地域の「やりたい!」をかなえていく、新しい道路空間のにぎわいについて「したい!」を考え、「できる!」に変えることに取り組んでいます。今後は、「ほこみち」を活用したい方に向けたリアルな手引書となるガイドブックを2022年秋に公表予定です。
インスパイアレポートの途中には、株式会社建設技術研究所が新たに開発した“HORIS”についての紹介も行われました。
“HORIS”とは“HOKOMICHI Rapid Image Share System”のことで、「ワークショップをいかにグラフィカルに行うか」というコンセプトをもとに開発されたシステムです。
これまでのワークショップでは、参加者から出されたキーワードをポストイットなどに記入して貼り付けていく工程を重ねていくことで、課題をクリアにしていくのが一般的でしたが、HORISのシステムを活用することで、参加者からでたキーワードを言語ではなく、3Dグラフィックスによってその空間を即座に再現できるのが特徴です。
「ほこみち」を活用した道路空間を、より既成概念にとらわれない自由な発想でイメージすることを可能にしたHORISは、すでに2021年9月22日に松本、10月22日に新潟で行われたワークショップでも使用され、いずれも好評を得ています。
フォーラムの最後を飾ったのが、「ほこみちは社会に何をもたらすのか」をテーマとしたプログラム『ほこみちクリエイティブトーク』。壇上では、ほこみち広報アドバイザーの山名清隆さんに加えて、有限会社ハートビートプランの泉英明さん、株式会社E-DESIGN 代表取締役の忽那裕樹さん、株式会社マグネットの佐藤勇介さん、国土交通政策研究所の梶原ちえみさんという、道路空間にかかわるさまざまなプロジェクトにかかわってきた識者のみなさんに、道路が開かれることで起こる人の変化と社会の変化について語り合っていただきました。
トークは「ほこみち」にかかわるさまざまなキーワードから展開。まず、泉さんが選んだ「道路はたいへん」というキーワードからは、道路という身近な存在にはステークホルダーが非常に多いため、その人たちすべての納得感が得られないと何も進まないこと。しかし、それは裏を返せば、みんなが同じ目線を向いたとき、それまで想像することができなかった爆発的な効果を発するという、「ほこみち」に秘められた無限の可能性について、話が盛り上がりました。
そのほか、「社会実験」というキーワードからは、「人が美しくみえる場所としての空間をデザインしたい」と忽那さん。「インクルーシブ」「アート」というキーワードでは、道路の新しい可能性を探っていくうえで、よりたくさんの人を巻き込んでいくにはカッコよく見せることが重要と佐藤さんが語るなど、「ほこみち」を広めていくうえでは「楽しい」「自分もやってみたい」というイメージをみんなでつくっていくことが大切だという意見で、皆さんが一致していました。そして、「ほこみち」がそのように変わっていくことで、道路管理者など行政側の働き方もより良い方向へ変わっていってもらいたいと、梶原さんが語ってくれました。
また、トークの途中で、スマホとQRコードを使って即座にQ&Aや投票を可能とするプラットフォーム「Slido」を使って参加者の反応をリアルタイムでチェックする時間もありました。その中で参加者からの質問で多かったのが「警察とのやりとり」。実際の現場では非常に苦労もあるそうだが、警察側も道路空間の利用に対するすばらしいアイデアをたくさんもっているため、時間をかけて信頼関係を築き上げ、お互いが協力し合うことで、より良い結果が得られるという結論が、識者の皆さんから得られました。
クリエイティブトーク終了後には、今回のフォーラム全体の感想について、たくさんの参加者がSlidoを使って次々に投稿。「ワクワクした」「夢がある」「可能性がある」「楽しそう」など、その感想は「ほこみち」に対する好意的なものばかりでした。
以上をもって、すべてのプログラムは無事に終了し、今回のフォーラムをきっかけに「ほこみち」の存在が全国へと広がっていくことを願いながら、終幕を迎えることとなりました。